これはキンカチョウという種類で、ほおがオレンジ色なのでオスである。
ところがこのマッチョなキンカチョウが、数年前から卵を産みはじめた。
長年性ホルモンに振りまわされてきたAは、「もう8個目になる」と言って肩をすくめた。
人間の脳と性ホルモンに関しては、ホルモンの果たす役割が、これまで考えられていた以上に大きいようだとAは言う。
ただし、その現場に踏みこむのはむずかしい。
従来エストロゲンとテストステロンは、性行動をつかさどる場所に作用するだけだと思われていた。
とくに重要なのは、脳のやや前方にある、ピーナツぐらいの大きさをした視床下部である。
視床下部を構成する各部分は、性衝動や排卵、のどの渇き、飢えなど生命に直結する各種機能を管理している。
ところが最新鋭の装置で調べた結果、エストロゲンとアンドロゲンの受容体は脳全体に広く存在することがわかった。
運動と認知にかかわる皮質と小脳、本能的な強い情動を作りだす扇桃、記憶に欠かせない海馬にも受容体は存在していたのである。
脂肪とレプチンはたしかに必要だが、成熟の起爆剤ではないと考える研究者もいる。
前思春期には脳の一部で神経細胞の刈りこみプロセスが起こるが、それが身体成熟を引きおこすという説だ。
この時期に特定の遺伝子が働くことで、視床下部に抑制性の神経伝達物質GABAを放出する神経細胞が減る。
すると抑制がきかなくなるので、視床下部は胎児や乳幼児期にやっていた仕事にいそいそと戻り、性ホルモンを盛んに作りはじめるというのだ。
どちらにしても、何かが視床下部に働きかけて、近くにある脳下垂体を活発にしていることはまちがいない。
脳下垂体は、それまで冬眠していた精巣や卵巣を起こし、テストステロンやエストロゲン生殖を可能にする身体成熟は、脳から始まる。
何がその引き金になっているのか、まだ断定できないが、レプチンというホルモンはその候補のひとつだ。
脂肪細胞で作られるレプチンが、身体の脂肪量を察知し、伝えているのではないかと考えられる。
身体成熟は発達における一大変化の段階であり、大量のエネルギーが消費されるので、あらかじめ十分な量の脂肪をたくわえておく必要がある。
だから拒食症患者とか、体操選手やバレリーナなど激しい運動をしている女の子は、なかなか初潮が来なかったりする。
女性の身体は、体重や脂肪量が一定レベルに達しないと成熟が始まらないようになっているのだ。
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